味な提言01 【野菜の規格外品】

 食材卸の会社を始める前から、日本全国さまざまな生産地を訪れてきました。田畑はもちろん畜産、狩猟の現場、そして植物工場も。畜産現場では飼料、出荷時期、飼育環境によって、畑でも土壌、肥料、栽培方法、収穫時期、天候などによって、どれだけ食材の味が変わるか実感してきました。
 愛知県で、農薬を使わずに多品目の野菜を栽培している農家さんを訪れたときのことです。こちらでは、毎日雑草の手入れや虫取りなど全てが手作業。ピンセットで一匹ずつ野菜に付着している虫を取り除いていました。それは気が遠くなる作業でしたが、それでもお客様に安全でおいしい野菜を届けたい一心で頑張っているこの農家さんの思いに心を打たれました。
 畑の野菜は、形も大きさもいろいろで、ふぞろいだし、いくら取り除いても虫食いは当たり前。スーパーに並ぶものとは違う顔のものばかりでした。しかし、もぎたての野菜の味が濃くておいしいこと!形なんてどうであれ料理してしまえばまったく問題ないことです。
 ところが現代の流通の中でふぞろいなものは、箱にきちんと入らず輸送が面倒、加工が面倒、飲食店や消費者など末端に受け入れられないなどの理由から、ほとんどが破棄されています。こうした規格外品は全体の生産量の40%にも及ぶといわれ、せっかく農家が手塩をかけて育てたおいしい野菜たちは行き場を失っているのです。
 食べ物に飢え苦しんだ経験がある私としては、なんてもったいないと心が痛む思いです。
 規格外品を正規出荷することで、逆にコストがかかってしまうという現実も分かりますが、別に形が悪くてもおいしくいただけるのだから問題ないと思われる消費者だってきっといるはず。そう信じて、六月に、名古屋市千種区の星が丘テラスに「comer(コメル)」という、さまざまな規格外野菜など取り扱ったお店をオープンしました。
 「comer」とはスペイン語で食べるという意味です。「生産者が愛情コメて作った食材を、私たちは感謝の気持ちをコメていただく」。そんなコンセプトのお店です。商品は実際に私が現場を訪れ、生産者も環境も熟知して仕入れたものばかり。だから一つ一つの食材にストーリーが有ります。
 私は、食べることとはどういうことか、あらためて考えてもらい、もっと好きに、そして食を大事にして欲しいと思っています。このお店を通じて、またこの連載を通して、そんなことを伝えていけたらと考えています。

味な提言02 【スローフード】

 昔はおなかさえ満たされれば良いと考えていました。健康のためと意識して食べることを考えたことすらありませんでした。
 ところが、長男に原因不明の発達遅延が起きました。今までの不摂生がたたったのではと後悔しても仕切れない思いでした。無我夢中で食について学び、食べることで体は作られ、食べることは生きることそのものだと気付きました。
 子どもの様子が落ち着き、親子で海外へ留学。ホームステイをしながらスローフード文化に触れました。
 スローフードとは、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動で①伝統的な食材や料理、質の良い食品を守る。②子どもたちに味の教育を進める。③質の良い素材を作る生産者を支える-という三つの柱があります。
 私たちがホームステイした家庭は、オーストラリアのゴールドコーストから南へ一時間ほどの小さな町で、グランマ、ママ、パパと、六歳と三歳の女の子がいました。
 休日は決まって海近くのマルシェ(市場)へみんなで行きます。
 行きつけの店の人と、楽しく会話をしながらの買い物です。その場で新鮮なフルーツをかじったり、焼きたてのマフィンを食べたりすることも。私も何度か行くうちに仲良くなって、「今日はこれがお勧め、買っていきなよ。土産だ、持っていきな!」なんて会話ができるように。毎週末が楽しみでした。
 マルシェでは、店同士それぞれの商材を勧めあいます。思い思いに楽器を弾いたり歌を歌ったり、食事を一緒にしたり、笑い声が絶えず、商売以上の結束のようなものがあり、魅せられました。
 家に戻れば、広い庭に自然と近所のファミリーが集まってきます。マルシェで購入した食材やワインを持ち込んで、バーベキューの始まりです。自然の中でお酒を飲みながら会話も弾みます。家族同士、時には友人同士で、自然体で伸び伸びとしていました。子どもたちは食事が終われば、庭の探検が始まって家庭菜園で育てている果物などを採っていました。
 個食に慣れていた私にとって、食事がこれほど楽しいものだとは思いませんでした。帰国後、一から食事について学び直そうと、栄養科のある短期大学に入学。その後は調理士、栄養士の資格も取得し、料理教室を主宰するようになりました。
 食材も探求したくなり、農家など生産者のもとを訪れるようにも。その数は八十軒以上になりました。現場は、知らないことばかり。「良い食材を一生懸命作ってくれる生産者の役に立ちたい。」との思いが食材卸会社を設立したきっかけです。楽しいマルシェのような場を作り、スローフードが普及することを目指しています。

味な提言03 【有害鳥獣?】

 地球温暖化などの影響で、生態系がどんどん変化し、計り知れない数の生き物が絶滅しつつあります。
 一方で異常増殖している生き物もいます。身近なものでは、シカやイノシシ。県内でも山間部を歩いてみると、イノシシが食べ物を求め掘った跡と思われるポコポコとした穴が数多く見られます。
 増え続けるシカやイノシシに、収穫直前の農作物を食べられてしまう被害が近年問題になっています。私が取引させてもらっている農家さんでも頭を悩ませます。
 こうした被害を防ぐうえでは、ある程度捕獲していくことが必要になります。しかし、猟師は高齢化し、数も減少しています。
 そこで、まずは自ら猟師免許を取得しました。現場視察では、エサでおりの中におびき寄せ、食べると鉄格子が閉まり捕獲されるという原始的な仕組みのわなでしたが、見事に捕獲。おりのイノシシは、鉄格子が曲がるのではないかと思うほど、激しく必死に体当たりします。最後は、猟師さんがイノシシを苦しませないようとどめ刺しをします。
 ところが、こうして捕獲されたイノシシはほとんどが廃棄されているのが現状です。シカやイノシシは実はとてもおいしい食材で立派なエネルギー源ですが、山間部の一部で食されているだけです。日本は自給率の低さが問題にもなっていますが、一方でこうして貴重な食材が捨てられているのです。
 せっかく命をいただくのです。感謝して、そして有効に利用したい。私は今、知識や技術のある、西洋料理専門の料理人に取り扱っていただき、ジビエ料理としておいしく調理してメニューに加えていただくよう取り組んでいます。
 料理人の中にジビエファンは多く、適正な処理を行った肉のおいしさを評価してもらえます。ただ、なかなかお客様から注文をいただけないのが悩みの種だとか。
 そこでもっと身近に感じてもらえるよう、料理教室の食材に用いたり、当店でも安価なメニューで提供したりしています。
 地元の食肉店と共同開発したイノシシのサルシッチャ(生ソーセージ)はハーブを効かせて臭みをなくし、当店でも人気のメニューになりました。
 赤身の肉で、低カロリー低脂質ながら高タンパク、鉄分たっぷりのシカ肉を使ったカレーやハンバーグ、ミートソースもなかなかです。お世辞にも舌でとろける柔らかい肉ではありません。でもどうしたらその食材のおいしさを引き出して食べやすくなるか?一手間加えて料理するだけなのです。
 食べる事で、地球環境を守ることにもつながり自給率向上にも貢献できるのです。

味な提言04 【ブランディング】

 県主催のイベントで突然、ラップにくるまれた炊き込みご飯を差し出されました。具材はキノコだけ。ヒラタケ?マイタケ?でもエリンギのような歯ごたえもありました。尋ねてみると、正体は「タモギタケ」というキノコでした。
 ヒラタケ属のキノコで鮮やかな黄色が特徴です。北海道、東北の山で夏の限られた時期だけ自生し、人工栽培が難しいことから幻のキノコと呼ばれています。近年人工栽培ができるようになりましたが、劣化が早くほとんど流通していません。
 炊き込みご飯をくださったのは、名古屋市熱田区で溶接業を営む社長さんです。工場内のプレハブの有効利用を考えていたところ、旅行先の山形県で食べたタモギタケが気に入って生産を決意、菌床を仕入れたそうです。新鮮でおいしく栄養価も高い。「広めたい」という思いは並々ならぬものがありました。
 しかし、異業種からの新規参入で、生産後、販売をどうしたらよいか分からず、相談してくださいました。おいしいタモギタケをもっと知ってほしい。熱い思いを受け、生産現場を訪ね、打ち合わせを重ね、食のブランディングが始まりました。
 ブランディングとは、食材の特徴をとらえた上で、販売先を探したり、レシピやメニュー開発をしたりすることです。生産者の意向を尊重しながらさまざまな加工品の可能性を見いだし、レシピ作成、加工業者探し、パッケージやネーミングまで取り組みます。
 キノコは食物繊維が豊富で低カロリー。美容と健康にいい食材ですが、特にタモギタケにはエルゴチオネイン、βグルカン、キシロースという成分が多く、免疫力アップ、老化防止、発がん性物質の抑制、整腸作用などに効くとされています。
 調理の仕方次第で、エグミが強く出てしまうという欠点はあるものの、上手に調理法を考えれば、いいだしが出るし食感もいい。
 試作した料理を手に、県内だけでなく東京の百貨店や、野菜を専門に扱う会社、レストランにもPRしました。反応は良く、レシピを同封しての販売は消費者にも好評でした。当店でもタモギタケのケークサレ(塩ケーキ)やキノコマリネなどをメニュー化し多くの支持を得ました。また、韓国料理研究家の先生とともに商品化したキムチ「キノコスメ」も好評です。
 商品開発に関わった全員の真剣な思いが集結し、ここ名古屋で、新たなタモギタケの商品が生まれ、たくさんの人に味わってもらえるようになりました。
 タモギタケに限らず、優れた食材が日本のいたる地域に存在しています。私たちの食のブランディングの仕事は続きます。

味な提言05 【昔ながらのハム】

 私は昔ながらの食を大事にしたいと思っています。塩漬けや砂糖漬け、酢漬けは、冷蔵設備が発達していない時代に、農作物が少なくなる冬をしのぐための保存食として普及しました。水分含量を減らしPHを調整、腐りにくくさせるのです。ジャム、漬物はじめハムやソーセージなどは今では日常的に食卓に並ぶ加工品として流通しています。
 でも昔とはずいぶん変わっているようです。一㌔の肉の塊からできるハムは本来、凝縮し一㌔以下しかできないはずなのに、最近のものは一㌔以上のハムができるそうです。それは、原料の豚肉を水で増量しているからです。水で薄まった味や弾力や色などは添加物で補います。本来の加工では手間がかかり高価になるため、簡単に短時間で大量生産できる方法として普及したようです。
 私が、昔ながらのハムやベーコン、ソーセージに初めて出会ったのは、東浦町の小さな精肉店です。かたくなに昔の製法で今なお作っています。原料の豚肉にもこだわり、信頼できる生産者から直接豚肉を仕入れています。
 豚舎に行ったときに驚いたのが、臭いがまったくしないこと。遺伝子組み換えでない穀物飼料やトルマリン石を使用した活性水を飲ませ、豚の健康に徹底的にこだわっているそうです。素材が良い豚肉でないと本当においしい加工品はできるはずがないからと、生産者と消費者と相談しながらハム作りに励まれていました。
 そんなこだわりの豚肉を三週間、塩とこしょうだけで塩漬けし、手で成形をして布でくるみたこ糸を巻き付け、天然の桜の木で八時間燻煙します。手間暇惜しまずすべて手作業で作られたハムやソーセージ、ベーコンは、無添加なので決して鮮やかな色はしていませんが、素材本来の味を引き立てていて、とてもおいしいです。
 ちまたに出回っているものと比べたら別物と感じるかもしれない。でもこういう本物の味を知ってほしいと思うし、本物の食材を残したいと思うのです。原材料は豚肉、塩、こしょうのみで素材の味がしっかりと生きていて、スープや炒め物に入れても存在感をしっかりと感じます。
 ずっと夫婦二人で営んできた精肉店ですが、ご主人が脳梗塞で倒れ、その後も不自由な生活となってしまいました。今では、奥さんと娘さん三人で作業をしています。細い腕なのに、肉のさばき方は見事で、お客さんに喜んでほしい一心で日夜働き続けています。夫婦の思いを知ってもらい、ハムなどを食べてほしいと思い、私の店でも様々なアレンジをしながら提供しています。

味な提言06 【外食】

 外食には、体に悪い、栄養バランスが偏っているといった、悪いイメージもあるようで、外食産業に携わる一人として非常に残念です。家庭では作れない専門家の料理を、友人や家族とゆったり楽しむための場であるべきだと思うのですが、「作るのが面倒」「安いから」といった利用者のネガティブな動機も気になります。
 私は、お客様の喜ぶ顔を見たいという思いのあるシェフの飲食店を応援しています。こだわりの生鮮食材を使ってもらおうと、名古屋市内をはじめ、関東や関西方面まで営業に行ったレストランは百五十軒を越えます。
 多くのシェフは早朝から市場で仕入れをし、仕込を始め、ランチタイムは厨房でフル稼働。ランチが終わればディナーの仕込み、ディナー中はにぎわう店内でお客様に料理の説明をしたり接客をしたり。閉店後は後片付けや掃除もしながら、また次の日の準備です。
 夜中でも商品を見てもらうため店を訪問することがありますが、夜な夜な肉を解体している姿などを目にし、頭が下がる思いです。
 シェフたちは、店を留守にすることができず、食材の現場を訪問したくてもできません。どういう食材がどこにあるのか情報を得るのも難しく、悩みは尽きないようです。
 卸業者として取引のある飲食店の役に立ちたい、良い店に残ってもらいたい、そんな思いから、シェフたちの代わりとなり、私は全国へ良い食材を探しに行き、発掘して紹介しています。
 食材があってもお客さまがいなくては困るので、集客活動もします。当社の食材を取り扱う飲食店の広報を勝手ながらさせていただいています。消費者への口コミはもちろん、ワイン会やパーティーを企画し、私自ら食材の説明をしたり、お客様を盛り上げるためのエンターテイナーにもなります。
 シェフとの距離感もグッと近づくプレミアムな会はいつも好評でその後のリピート率も高くなっています。職人肌のシェフはもっともっと世間から高評価を得てほしいと思うし、消費者の支持を得てほしいと思います。本物を追及する料理人がいるからこそ、私のようなこだわり食材を扱う業者や、こだわり食材を作る生産者が生きていけるのです。
 消費者にも意識してよい外食を楽しんでほしいと思うし、生産者もそういうレストランに出向き食事をして料理の知識も得てほしいと思うのです。私自身も、地道でもコツコツと啓蒙を続け、生産者、飲食店、消費者そして卸売業オールウィンになれる構図を作り上げていくことが目標です。

味な提言07 【エコチル調査】

 数ヶ月前、多嚢胞性卵巣症候群と診断を受けました。初めて耳にしたこの病気、無月経、多毛、肥満、男性化兆候などの症状を伴うそうです。初め、本当にショックで涙が止まらず、立ち直れないのではと思うほどでした。
 しかし、同じ様な病気を、若い世代の人には経験して欲しくないという思いが強くなり、少しでも「食」を通して予防できるように提唱したいと思うようになりました。
 この病気の原因もまた、食生活の乱れやストレスの増大が、内分泌に影響を与えて起きているからです。病気を機に、私は自分の体と環境をいま一度、見直すようになり、薬膳の勉強も始めました。
 食事はおいしく楽しく食べる事が前提ですが、体の声に耳を傾け、体が必要としている栄養素を効率よく料理で取り込むことも重要だと思いました。例えば、冷え性には、ショウガを使って体を温めるとか、むくみには利尿作用のあるカリウムが多く含まれている野菜を意識してとるなどです。
 暑い季節には不足しがちな水分の多く含まれている夏野菜を、寒い季節には体を温める根菜を多くとることなども考えると、環境と食というのは自然の理にかなっているとつくづく実感します。どのような症状を改善したいか、これからの自分をどのようにしていくか、毎日の食事は本当に密接な関係にあると思うのです。
 近年、ぜんそくやアトピーなど生活環境の中の物質が原因と考えられている疾病が増えています。環境省ではその原因を明らかにし、有効な対策を講じるため、今年から子供の健康と環境に関する全国調査「エコチル調査」を始めています。全国十五地域で十万人の妊婦に参加してもらい、妊娠初期から子供が十三歳になるまで血液や尿の採取、質問票への記入などをお願いするものです。
 調査結果は解析し、子供の成長や発達に影響を与える環境要因を明らかにし、病気の予防に役立てます。いわば未来の子供たちの健康を守るためのプレゼントのようなものです。子供が健康で、夢と希望に満ちあふれた人生を歩んでいくことは、私たち親が心から願うことではないでしょうか。
 私は子供たちに明るい未来、良い環境を残したく、エコチル調査の意義に賛同し愛知ユニットセンターの妊婦さん向けエコチル・クッキング教室の企画・運営にも協力をしています。

味な提言08 【食育】

 食べることに興味を持つことが食育の入り口だと考えています。幼い子に対し「好き嫌いはダメ」「行儀よくきれいに食べなさい」などと頭ごなしに言っては、せっかくの食事が楽しくなくなり、興味を持ってもらえなくなるかもしれません。
 長男の離乳食を始めたころ、全く食べてくれずに悩みました。いろいろな素材を試したり、裏ごしを何度もして滑らかにしたり工夫するのですが、全く口を開いてくれませんでした。無理やり近づけると手で払われ、時間をかけて作った食事が床に散乱なんてこともしょっちゅう。悲しくなり、「お願いだから食べてよ」と泣きながら言っていました。
 今思えば重い空気が流れ、そんな私が、長男は怖かったのでしょう。なんで、もっと楽しい雰囲気をつくってあげられなかったのかと反省しました。諦めかけていたころ、食べるようになり、今では学校から戻ると一言目に「今日のごはん何?」って聞くほど食いしん坊に育ちました。
 育児は、母親にとって本当に大変なことです。食事に関しても遊び食べやムラ食いなど、戸惑うことばかりです。余裕がなくなった母親にとって、夫や子供からの「すごくおいしいね!」「作ってくれてありがとう!」などの言葉は、何よりの喜びになります。そんな魔法の言葉で、食事作りの大変さも一瞬で消えて、もっとやる気が出てくるものです。
 口に出さないと伝わらないので、ぜひお父さんが率先して、言葉をかけてほしい。そんな姿を見て、子どももまたあいさつすることや感謝の気持ちを持ちます。誕生日やクリスマスなど、年中行事のたびに手作りの行事食で食事を楽しみながら祝う習慣は、大人になっても楽しいものです。
 料理や食材に子どもが興味をもち始めたら、どんどん知的欲求を満たしてあげてほしいと思います。わが子にもありましたが、「これ何?」と質問攻めの時期があります。面倒がらず丁寧に答えてあげてください。そして、どんどん台所に一緒に立ってください。
 味覚狩りや魚釣りなど食材のルーツをたどる体験も有意義です。岐阜県可児市にある「楽農楽人」は、耕作放棄地を市民農園として整備し、子供たちに参加してもらいながら田植えや稲刈りを行っています。農業を身近に感じてくれるようになりますし、収穫した米を食べる喜びをみんなで分かち合うのも素晴らしいことです。
 食育は体と脳と心を育てます。いろいろな食材や料理を見て、香りを楽しみ、食べて味覚を育てます。たくさんの経験の積み重ねで、一生懸命自分で考える力、行動する力も養われていくはずです。

味な提言09 【福祉施設の支援】

 長男が生まれて病院に通う中、たくさんの個性ある子どもたちを見てきました。社会にうまく適応できない反面、すごく優れた才能や、優しい心を持っているのです。
 社会福祉施設などでは、生活や就労支援などの一環で、さまざまな取り組みが行われています。入居者や通所者がリハビリを兼ねて米や野菜などの農作物をはじめ、菓子やパン、弁当なども作っています。
 ところが、せっかく作っても販路が無く流通していないことがほとんどです。一般の消費者よりも、食品流通に関わる業者の先入観による差別が大きいと私は思っています。販路が少ないため、利益を出せず、一生懸命手作りしても、給料がほとんど支払われていないのが現実です。
 生まれ持った個性は誰にでもあるもので、それを認め合えないことはとても悲しいことだと思います。しかし、商品の良しあしに関係なく、いわゆる偏見、差別から扱ってもらえないケースもあるのです。また、職員が不足し、日常業務が手いっぱいで、なかなか営業活動を積極的にできないのも流通が広がらない原因のひとつです。
 私はいくつかの福祉施設と提携して、施設で作る菓子やパンなどの販売促進、品質向上のための提案や、新商品開発などについて提案させていただいています。けなげなほどに丁寧に、そして心を込めて手作りしてくれる彼らの長所を生かし、「購入したい!」と思わせる商品を生み出していきたいと思っています。工業化が進む中、貴重な手作りの担い手でもあります。
 毎日数種類のクッキーやパンを作っていて、ランチも提供している名古屋市天白区にあるカフェハミングバードでは最初、お客様は通所者の親や関係者ばかりでしたが、少しずつ広がってリピーターも増えているそうです。先日、当店で一緒にパフェ作り体験教室を実施しました。私の話に熱心に耳を傾けてくれて、とても楽しそうに作ってくれました。こうして新しい経験を積み重ね、社会との接点を持つことで、とてもよい成長につながるのです。見守る両親や職員もみんなの成長に感動や喜びを覚えてくれるはずです。
 今後も、一緒に料理教室などのイベントを開催し、一般の方も招いて楽しいひとときを過ごしてもらえるように努力していきたいと思っています。食を通じて、福祉施設を支援し、地域活性化にもつながれば、一生懸命働く彼らに早く、きちんとしたお給料が出せるようになるはずです。そうした仕組みづくりもまた、私の目指すものです。

味な提言10 【食ビジネスの責任】

 家に包丁がなくても、電子レンジがあれば生きていける時代です。便利な世の中になり、食べ物もいろいろなものがあふれ、何を選んだらよいか、きちんとした知識を持つことが欠かせません。
 しかし、昔ながらに、三食すべて手作りの料理で、毎回、だしをとってみそ汁を作ったり、自家製の漬物をつけたり、パンや麺類も、おやつも全て手作りというのは、理想にすぎず、忙しい現代人には難しいことです。家事に追われてストレスもたまりかねません。
 これからは便利さを利用しながら、昔の良い部分を残した生活で、楽しみながらバランスをとっていくことが重要です。そういった知識を子供たちに伝えること、良い環境を与えることこそが大人の役目のはずです。
 わが社では現在、短時間でできて、おいしく、栄養がとれるような商品開発に力を入れています。例えば、乾燥したキノコと海藻、発芽雑穀、塩をブレンドしたものを、炊飯器の中に白米と入れて炊くだけでできる、栄養価の高い炊き込みご飯の素です。また、国産のハトムギなどの雑穀、豆類など使って簡単にスープやリゾットを作れるセットも。献立考案や計量などの準備の手間は省け、添加物は使用せず栄養を最大限摂取できるような手料理に役立つものを考えています。
 これからの時代、人の健康のことを考えない商品は、作り出す価値はないし、作るべきではありません。企業として、ぶれない理念をもって地道でも本物を作り続け、啓蒙する人材を育成していくことが欠かせません。
 現代社会において、外食や惣菜店の存在は不可欠ですが、重要なのはその中身です。食ビジネスにかかわる人たちは、生産性、利益率を追及するだけではなく、本当に人々の健康を考えるべきです。
 食材の持つ健康や美容に寄与する機能性を熟知し、消費者の年齢や生活習慣、疾患などにも対応できるよう考える必要もあります。
 もちろん、消費者自身も、安くてたくさん入っていればいいというような考えから、適正価格を認めるような理解も不可欠です。
 人間は約六十兆個の細胞でできていて、その細胞をつくっているのは食べ物です。食ビジネスに携わる人たちは、人の体をつくっていくという、それだけ重要な役目を担っているのです。
 いろいろな仕事の依頼をいただき、実施するか悩むとき、その仕事をすることで社会のために役立つか、人が幸せになるかを基準に私は判断しています。人が人のために、人の幸せと健康を願って働く。そんな社会を未来に引き継いでいきたいです。